病床にて

針と糸で
外套のほつれを繕うような
日の光を浴びた毛布で
やわらかくあたたかく包むような
代償のない慈愛をあげたい
何にでもなれるのならば
波になりたい
夜は静かな音を立てて
やさしい夢の中から
ここにいるよと教えてあげたい

月の満ち欠けに追い立てられて
人は老いていく
海馬が記憶の砂浜を駆け巡って
粒子は散り散りになってしまう

記憶越しにわたしを見ている
あなたの時は止まったまま
過去が現在の仮面をかぶり
あなたに笑いかけている

赤子のように
木々が重なり作る影や
風に揺れる枝の軋みに
不安がらなくて済むように
何にでもなれるのならば
熱になりたい
震える身体を抱いて
あなたに与えられた命の温度で
ここにいるよと教えてあげたい

止まったままのあなたの時に
そっと触れて
秒針を揺らしつづけてあげたい
潰えてしまうまで
無傷のふりをしながら
やさしくし合っていたい