実態

無傷のまま切り裂かれる、通り魔は不在のまま、実在のない世間だ。世界はいつも無自覚で、絶やしようのない根源に、僕らは怒れないまま、食堂のコップの水垢や、そういったどうだっていいものに苛立って、そんな自分を嫌悪する。ループ。吊橋の先、地面から…

夢がある

夢っていつまで持ってていいものなのだろう。 いつまでだって持っていていいよ、と人は言うだろうが、きっとそれには、「今守るべきものを犠牲にしなければ」と前置きがつく。犠牲を払わなければ辿りつけない場所に夢があるなら、その夢は持っていていいもの…

淡い夏

透明なものは、あってないように見える。それでも、触ればそこにあるし、光は屈折していくし、色なんて、あってもなくても変わらないのかもしれない、と思う。ただ、君が着ていた黄蘗色のカーディガンが眩しかった。遠ざかっていく君から、淡い夏の香りがし…

病床にて

針と糸で 外套のほつれを繕うような 日の光を浴びた毛布で やわらかくあたたかく包むような 代償のない慈愛をあげたい 何にでもなれるのならば 波になりたい 夜は静かな音を立てて やさしい夢の中から ここにいるよと教えてあげたい月の満ち欠けに追い立てら…

パフェとコーヒー

心が揺れ動いたときは、日記を書くより詩を書く方が、より正確に記録できる、と思ったのはずいぶん幼かったときのことだ。それ以来、それでも何か継続することに意味があるのでは、と、何度となく男もすなる日記といふものに手を出してみたのだけれど、何と…

雪の日に考える

大雪だったね。 しんしんというよりばさばさといった風情で降っていて,よりにもよって仕事に行く前にこんなに降らなくても,職場に着きさえすれば今日は中での仕事なんだから,と思いながら仕事に行ったら,ものの5分で外出することになり,地面の雪をびし…

尊いと思うこと

アメリカ合衆国ではトランプ氏が大統領になっていて,今年は本当に激変の年だなあと思いながら,ジムに行って走って,帰ってきて詩を書いていた。もうワシントンでは夜が明けている。海の向こうでは,また激動の一日が始まろうとしている一方,日経平均株価…

切り取り方なんです、世界って。

先日ダリ展に行ってきたのですが,同じく行った知人にそれぞれ一番気に入った作品を聞いてみると,みんながみんな違う作品を違う理由で選んでいて楽しい。この作品が一番胸に響いたといって見せられたグッズの絵を見て,私は全く思い出せないのも楽しい。 人…

温度のない魔法について

生きる時間のなかですれ違う人々を繋ぎとめようとする行為は、果たして自然なんだろうか。と、SNS上の顔も出会った場所も忘れてしまった“友達”を見て、思った。かと言って、“友達”から削除する積極的な理由も見当たらないので、浮かんだ疑問符は浮かんだまま…

生きるってすこしいそがしい

適度というのはむずかしい。それはおそらく、適度の度合いが人によってずれているからだ。その度合いというのは心の広さという言葉で表されるときもある。同じ行為でも、許容できる人と許容できない人がいる。だから、適度はむずかしい。それゆえ、わたした…

近づきたいものに近づきたい

朝ご飯を買いに近くのパン屋に行った。朝焼きたてのパンは,どれもこれもが魅力的だ。「私に一番合ってるのはどの子かな。一番私を幸せにするのはあの子かな。」なんて考えながら,広くはないお店の中を行ったり戻ったりして,選択肢を絞っていく。絞られた…

君の銜える煙草になりたい

研究棟の外,普段はあまり使われない非常階段が,彼の定位置だ。そしてその定位置は,私の所属する研究室の部屋の窓からとてもよく見える。 彼は,いつも同じ時間に,煙草を吸いに外に出て,雨ざらしで色褪せた階段の手すりに,気怠く身体をもたせかける。 …