淡い夏

 透明なものは、あってないように見える。それでも、触ればそこにあるし、光は屈折していくし、色なんて、あってもなくても変わらないのかもしれない、と思う。ただ、君が着ていた黄蘗色のカーディガンが眩しかった。遠ざかっていく君から、淡い夏の香りがした。今にも消えてしまいそうな、8月の終わりの香りだった。それ以外はすべて透明で、きれいな湧き水のような、夏だった。